~天地返し、汗と根っこと石との戦い~ その1

ニンニク栽培

朝4時半、蝉の声すらまだ始まっていない静けさの中で目を覚ました。今日は「天地返し」に挑む日。要するに、固くなった庭の土を深く掘り返し、新しい土の層を表に出す作業である。素人なりに調べた限り、この工程はとても重要らしい。

気合いを入れて軍手をはめ、スコップを片手に庭へ。まだ空も薄暗く、空気はひんやりとしている。だがこの静けさの中に、自分が新しい一歩を踏み出しているような感覚があった。

最初の一掘り。スコップを勢いよく突き立てようとしたが、思ったより土が硬い。いや、「硬い」などという生易しいものではなかった。数十年、雨風にさらされ、踏み固められてきた庭の土はまるで岩盤のようだった。最初の1平方メートルを掘り終えるのに、まさか1時間もかかるとは思わなかった。

土の中からはさまざまな障害物が現れた。石、根っこ、何かの枯れた茎。ときにはスコップが「カチン」と跳ね返される音もする。石だと思ったら木の根だったり、根だと思ったら太い配管に見えて慌てたり。土を掘るというのは、ただの体力仕事ではない。予想外のものと向き合い、思わぬ「出会い」に戸惑う作業でもある。

ひとつ、今でも忘れられない瞬間がある。掘り返した土の中に何か柔らかい感触が混じった。慎重に見てみると、どうやら何かの蛹だった。完全にスコップで突いてしまったようで、申し訳ない気持ちになった。彼らもまた、この庭の住人だったのだ。

時間が経つにつれて、体も熱を帯びてきた。振り下ろすスコップに合わせて汗が飛び散る。朝6時を過ぎた頃には、気温も体温もかなり上昇。汗は止まらず、軍手は湿り、掌には嫌な手応え。小さなマメがじわじわと浮かび上がってきた。たかが土を掘るだけ――そんな風に思っていた自分を、スコップで頭ごと掘り返したい気持ちになった。

それでも、約3時間、5時から8時までかけて、ようやく3平方メートルを掘り終えた。思ったよりも進んでいない。でも不思議と「進んだ」感覚がある。土の色が変わり、柔らかくなり、地面の表情が変わった。

作業を終えて縁台に腰掛けたとき、背中から首筋、顔にかけて流れ続けていた汗にようやく気づいた。Tシャツはびしょ濡れ、帽子の内側からもポタポタと汗が滴る。思わず「これはやばいな」と独りごちた。だが、なんとも言えぬ達成感が心に残っていた。

今日は一日で終わらせるつもりだった。始めた直後までは、正直、そんな風に甘く見ていた。だが現実はそう甘くない。家庭菜園といえど、土との対話には時間がかかるのだ。一日で終わらせる必要なんてない。数日かけて、少しずつやればいい。掌のマメを眺めながら、ふとそんな風に思えた。

そして、ふと庭の隅に目をやると、雨どいの鎖に蝉が一匹。今まさに羽化を終えたばかりらしい。抜け殻を背に、夏の空気を感じている。なんだか、自分の汗だくの顔と重なるような気がして、ちょっと笑ってしまった。

———

この庭は、いま確かに少しずつ変わってきている。土も、虫も、自分も。ニンニクの植え付けまではまだ道のりは長いけれど、こうして一歩ずつ、前に進んでいこう。

「天地返し」第一日目、終了。

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